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テーマ型調査
「みらリポ2018」

プロジェクト編03
生命は「なぜ」を問い、「伝える力」を育む。

生き物との関わりは、4つのポイントで「伝える力」を伸ばす。
2018/11/26 カテゴリ:
プロジェクト編
自然や生き物と関わることが「何を(WHAT)、どのように(HOW)、誰に(WHO)、なぜ(WHY)伝えるか」、それぞれにパワフルな影響をもたらす。自然や生き物と関わることが「何を(WHAT)、どのように(HOW)、誰に(WHO)、なぜ(WHY)伝えるか」、それぞれにパワフルな影響をもたらす。
自然や生き物と関わることが「何を(WHAT)、どのように(HOW)、誰に(WHO)、なぜ(WHY)伝えるか」、それぞれにパワフルな影響をもたらす。

自然や生き物と関わることが「何を(WHAT)、どのように(HOW)、誰に(WHO)、なぜ(WHY)伝えるか」、それぞれにパワフルな影響をもたらす。

生き物の世話をする子どもは、「伝える力」が高い?

2017年に日本経済団体連合会が行った調査によれば、「企業が新卒学生に求める能力」の第1位は13年連続で「コミュニケーション能力」なのだそうです。他者と関わり合い、他者とコミュニケーションしながら生きていく人間にとって、「伝える力」は最も大切な力のひとつ。この章では、自然や生き物との関わりが「伝える力」にどんな影響を及ぼすのかを考えていきたいと思います。

図1は、博報財団こども研究所が2017年に実施した『子どもと自然調査』の「『ことばの力』に対する自己評価」をまとめたものです。「物事に対して、自分なりの意見を持つほうだ」「新しいことをやるときは自分なりにやり方を考えて行動するほうだ」などの「考える力」のスコアに対して、「自分の意見や考えを、まわりにはっきりと伝えるほうだ」「言いたいことが相手に伝わるように話し方に工夫をしている」などの「伝える力」のスコアが低いことがわかります。

図1

一方で、同じ図1からは、「学校で生き物の世話をする機会が多い子」は、そうでない子よりも「自分の意見を持つ」「自分で考えて行動する」「自分の考えを伝える」「伝え方を工夫する」という点でより高いスコアを出していることが読み取れます。

自然や生き物との関わりが子どもたちの「伝える力」を育むのだとしたら、そこにはどんな仕組みが働いているのでしょうか?

大岡小学校の6年3組が、「はちブンブンプロジェクト」のクライマックスとして実施した、自分たちの体験を地域の人に伝えるイベントを例に考えていきましょう。

「Whatの感動」「Whoとの共感」「Howの自由」が、「伝える力」を伸ばす。

「伝える」ということを「何らかの情報や思いを(What)・誰かに(Who)・何らかの方法で(How)届けること」と分解してみます。そうして個別に見ていくと、6年3組のイベントでは、「What」「Who」「How」のいずれについても自然や生き物がパワフルな影響をもたらしていたと考えられます。

まずは「What」。「ミツバチは1回刺したら死んでしまうこと(それでも仲間のために勇敢にスズメバチに立ち向かうこと)」「ハチミツを1kg集めるには4万輪の花が必要であること(だから5kgのハチミツが集まった大岡の街には20万輪の花があるのではないか)」など、6年3組がイベントで地域の人々に伝えたメッセージの核には、自然や生き物への感動、また、地域に対しての新たな発見や驚きがありました。自分たち自身が驚き、感動した「What」だからこそ、人に伝えたくなる。うまく伝わるよう工夫や努力をしたくなる。自然や生き物にはそうさせる力があります。

次に「Who」。リポート2で見てきたように、子どもたちは伝える相手=地域の人々に対しても、「はちブンブンプロジェクト」を通じて、つながりを深めていました。地域のみなさんと、養蜂の開始時や蜜源調査などの折に触れて、お世話になり交流を行ったことが、「なんとかして、この人たちに伝えたい」という思いにつながります。

そして、伝える方法「How」については、プロジェクト編OVERVIEWの図で見てきたように、驚くほど多様な手法や表現が生まれました。文章にする、口で話すという言語的な表現だけでなく、絵を描く、料理をする、ロウソクをつくる、ぬいぐるみを編む、映像を編集する......などなど。自然や生命という存在は、複雑で、多面的。その伝え方に、ひとつの正解はありません。だからこそ、各自が自分の個性を活かし、自分のやりたいことに取り組んで伝えることができる自由がある。それが一人ひとりのやる気や創意工夫につながっていきました。

写真3
イベントでは「養蜂体験」「伝え方」「料理」「ものづくり」の4グループに分かれて発表。大岡に住む人々や草花、昆虫などに向き合いながら、同じくこの街の一員である自分は何ができるのか? それぞれの視点から自分たちの体験と想いを地域の人へ届けた。
写真4
クラス全体の願いとグループごとのコンセプト。もともとの「目的」に照らし合わせながら、ブラッシュアップさせていった。
写真5
ものづくりグループが大岡産のミツロウで制作した卵の殻を器としたロウソク。

振り返って考えた。「なぜ、ぼくらは伝えるんだろう?」

しかし、これら「What」「Who」「How」という3点にも増して、私たちが興味深く見たのが「Why」に対する子どもたちの向き合い方です。

イベントは共同研究の期間中2回実施されました。1回目のイベントでは、子どもたちはこれまでに新しく学んだことや自分たちが感動したこと、発見したことを伝えたい一心で企画に「あれもやりたい」「これもやりたい」と何でも盛り込んでしまい、一方でクラス全体で立てた「はちブンブンプロジェクト」の目的がボヤけてしまいました。

「クラス全体の目的は『地域の人と大岡の環境をつなげること』だったけれど、自分たちの発表したものは『環境』が全然入っていなくて、そこでズレているなと感じました」「1回目は内容を詰め込みすぎてしまったりとかして、伝わった人(参加者アンケートで大岡の自然について言及していた人)も5人しかいなくて少なかった。考えずに全部入れちゃえって感じでやってしまったので、そんなに伝わらなかったのかなと思いました」

鈴木先生のファシリテーションによって、1回目の振り返りをしっかりと行った6年3組のメンバー。2回目のイベントへ向けて、もう一度、目的を意識し直します。

「1回目に劇をつくりはじめたときは、そのとき思いついた伝えたいことを詰め込んでいる感じだったんですけど、やっぱり2回目をやるときには、それが本当に大事かどうかみたいなことも考えないといけないなと」「劇はすべて変えて、環境についてのことを意図的に、伝わりやすいように入れて、それに合わせて映像もすべて変えた」

2回目のイベントは、クラスで立てた目的に照らして内容を絞り込み、伝え方をコンパクトにして実施しました。その結果、子どもたちが伝えたかった「大岡の自然の豊かさ」について言及する参加者アンケートは1回目よりも2回目のほうが多く、「地域の自然についてよく知ることができた」「意外に大岡にも自然が多いことがわかった」といったコメントを地域の方々からもらうことができました。

「前までは一度決めたことはずっとそのままで進めていく感じだったんですけど、今回、1回目のイベントから2回目のイベントにかけて"目的に返る"みたいなことができたと思います。立ち返るというか、もう一度それが目標にずれてないかを確認する」という声も。子どもたちの中には、目的に照らして振り返りを行い思考や行動の質を高めていくという、新たな習慣を身につけたことを実感している人も出てきたようです。

「なぜ」を問い続ける。そのエネルギーをみつばちがくれた。

写真4
鈴木先生の板書。一度では完成しない。実行してみて、そして、振り返りを行うことが大切。目的意識のような抽象的な概念は、大人が言葉で指導するだけでは十分に伝わらないため、実践を通して対象に向き合うことではじめて、「伝えることの本質」に触れられる。

「Why」に立ち返る。目的に立ち返る。昨今のブランディングや経営の世界でも、「Purpose経営」「Purpose Driven Branding」と称される、組織のメンバーが共感できる「Purpose」=「なぜ」を明らかにし、具体的なアクション(手段)がそれに合致しているかを絶えず振り返っていくことが重要であるという考え方が着目されています。「なぜ、ぼくらは伝えるのか?」「そもそもの目的は?」「なぜこの活動をやっているんだろう?」。そもそもの「なぜ」へ向き合うことは、「伝 える力」を伸ばすために大切な思考のひとつだと言えるでしょう。

前述した通り、自然や生き物というテーマは「How」が多様で自由になりやすいものです。それは子どもたちが自分なりの「伝える力」を育むにあたって大きな長所になると同時に、その自由に引きずられて、そもそもの目的から伝える内容や伝え方がブレてしまう危険性をはらんでいます。

写真7
写真8
写真9
スライドをつくってプレゼンテーションする、会話劇を通じて伝える、大岡についてのムービーを編集し上映する、巣箱の中をCCD カメラで撮影する、標本で説明する、お土産用ハチミツのパッケージをデザインする、等々。生き物を表現する方法は多様で、自由。

そのときに、「そもそもの目的や本当に大切なことは何か? それに照らしてこの伝え方はベストなのか?」と、「Why」を問い続ける姿勢が合わさってこそ、本質的な「伝える力」を伸ばし深めることにつながっていくのではないでしょうか。そして、自然や生き物への感動や愛情は、その「問い続ける」というハードな思考や対話をやりきるだけのエネルギーを、子どもたちに与えてくれもするのです。

自然や生き物は、「What」に感動をもたらし、「Who」との共感を築き、「How」の自由をひらきます。さらに、「Why」を問い続けることを求め、それを可能にする力を子どもたちに与えてくれます。だからこそ、「伝える力」の育成に大きな影響を及ぼす。それが、6年3組の活動に立ち会った私たちの実感です。

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