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テーマ型調査
「みらリポ2017」

プロジェクト編05
「子どものおでこに瞬く光が見える。」

「地域と関わる学び」が、先生の自己効力感やモチベーションも高める。
2017/07/28 カテゴリ:
プロジェクト編
データ

日本の教員は他国に比べ自己効力感が低い?

OECDが2013年に34ヶ国・地域を対象に行った「国際教員指導環境調査」(図5)では、日本の教員の自己効力感が参加国平均を大きく下回る結果が、明らかな数字として表れています。

図5 出典:OECD「国際教員指導環境調査」2013年
図3

これは、教員の「自己効力感」と仕事に対する満足度を調べたものですが、「学級運営」や「教科指導」の側面だけでなく、特に、「生徒に勉強ができると自信を持たせる」「生徒が学習の価値を見出せるよう手助けをする」といった「生徒の主体的学習参加の促進」に関わる事項については、参加国平均よりも日本の教員の評価が顕著に低いという結果が出ています。この背景には、日本の教員の目指す水準が他国と比べ高い可能性や、実際の達成度にはかかわらず謙虚な自己評価をしている可能性も考えられます。しかし、いずれにせよ、子どもたちの自己肯定感を高める上で、教育者であり日々子どもたちに接し、彼らの考えや生活に大きな影響を与える教員の自己効力感を育むことは、きわめて重要な課題と言えます。では、教員の自己効力感はどのようにすれば高まるのでしょうか?

地域と関わるコミュニティ・スクールなら、
先生の満足度や意欲も高まる!?

私たちは、子どもと同様に、教員にとっても「地域と関わる学び」が大きな役割を果たすのではないかと考えます。今回、私たち博報財団こども研究所が小学校の教員207名を対象に行ったアンケートでは、図6 のように、コミュニティ・スクールの教員のほうが、そうではない教員に比べて、仕事に対する満足度や意欲が高い、という数字が出ています。

図6 出典:博報財団こども研究所「こどもと地域調査」2016年
図3

本調査の項目には、「クラスの児童が好き」「教員の仕事にやりがいを感じる」「積極的に授業を工夫・改善している」などがあり、本来、教職に就いている以上、このような項目に対するネガティブな反応は、考え難いものかもしれません。

しかしいまの日本の教育現場では、世界で一番と言われるほど日々多忙を極める教員が、少しずつ仕事への意欲を低下させている可能性も否定できません。上記の項目は、教員の自己効力感を測るものであると同時に、その教員に教えられる子どもの自己肯定感にも影響を及ぼすものと言えるでしょう。コミュニティ・スクールであることが教員のモチベーション向上につながるのであれば、「地域と関わり学ぶ」ことが、教員と子どもたちの未来のための有効なアプローチとなるのではないでしょうか。

実践

子どもの本当にやりたいことを「引き出す」授業づくりへ。

共同研究プロジェクトで行われた、地域と関わり合う学び、ゼロから何かを創り上げる学びは、担任の水野健吾先生にも大きな変化をもたらしました。

教員となって2年目の水野先生は、清水江尻小が初めての赴任先。2年前までは「コミュニティ・スクール」というものの存在さえ知らなかったそうです。

そんな水野先生が4ヶ月間の取り組みを通して、大きく変わったとの声が聞こえます。山下校長によると、他の教員からの水野先生に対する信頼感が以前とは比べものにならないほど増したのだそうです。そして何よりも水野先生自身、自分が変わったことをはっきりと感じ取っています。

「巴きら」での企画を決定するとき、水野先生は「自分としてはハゼ釣り大会が一番よいと思い、具体的な構想を考えていた」と言います。しかし、子どもたちが選んだのは「そうじ大会」。このあたりから、子ども自身が本当にやりたいことを引き出し、その実現に向けてさまざまな可能性を広げる存在になろうと、水野先生の変化がはじまったようです。水野先生は、子どもたちが自分の頭でしっかり考えて、行動を起こしやすくするために、多様な工夫を凝らすようになりました。

「先生もやらなきゃと思ったんだ」と、広告の例を自ら制作した水野先生。自分が経験することで、制作の難しさを子どもと同じ目線で語ることができる。

たとえば、そうじ大会が終わった1週間後、達成感を感じている子どもたちに対して「巴川を見てきたら、ゴミがもうこんなに落ちていた」と写真を提示してみる。すると、子どもたちからは「なぜなんだろう」「そうじ大会に参加してくれた人は捨てないはず、参加していない人が捨てたのでは」「"巴川を大切に"という自分たちの想いは、そうじ大会に参加してくれた人には伝わっているけれど、参加していない人には伝わっていない」という議論が巻き起こり、より多くの地域の人にもわかってもらえるように、「ゴミを捨てないでほしい」ことを伝える広告をつくろうと、さっそく次のアイデアが生まれてきます。

子どもたちの思考が止まらないように気をつけながら彼らを刺激し続けたり、教員が出て行くタイミングをはかったり。子どもがじっくりと考えている間は待つことも大切ですが、待ち過ぎてもいけない。その働きかけのタイミングとやり方の選択の良し悪しが、子どもたちの学びに影響します。「自分の言葉がしっかりと子どもたちに届いたか、子どもたちは腑に落ちているか。感覚的にわかることが増えてきた」という水野先生ですが、自分が出て行くべきタイミングについて、昨年度まではまったくつかめなかったのだそうです。「それがここにきて、よくわかるようになりました。授業のテンポを意識するようになったからか、『いまじゃないか』というのが感じ取れるようになってきました」

いよいよ「いまだ!」というときには「その子どものおでこの前あたりに瞬く光が見える......、気がする」と水野先生は笑います。その"光"の瞬間こそ、先生が「巴きら」で得たものと話す、"間"なのかもしれません。

「『巴きら』がはじまるまでは、光ることなんて1回もなかった」けれど、この4ヶ月の活動で教員が出て行くべき"間"、教員と子どもの関係性の"間"の妙を知り、「自分自身がこの授業にかけた時間とこの経験をこれからの軸・土台としてやっていきたい」と抱負を語ってくれました。

考察

子どもたちの成長や可能性を実感できる環境が、先生のモチベーションに。

ここまでの定量調査や定性調査の結果を鑑みると、地域と関わる学びや体験型の学びというのは、「教え込む」教育ではなく、子どもたちの能力や可能性を「引き出す」学びの機会なのだと言えます。そして、その「引き出す」教育によって、自分が教えている子どもたちの成長を目に見える形で実感できることが、教員としてのやりがいや達成感につながっていくと考えられます。

左はリハーサルでの水野先生。思い通りに進まない状況をともに経験、共有し、葛藤する。しかし大会当日は子どもに任せ陰からサポート。終了後は晴れやかな表情だった(右)。

「ここまで子どもたちが成長するとはまったく想像していなかった。クラス全体が大きく変わり、いまでは教科学習でも"この子たちスゴイな"と感じる場面が多い」「子どものスイッチが本当に入ったときって、アンテナが高く何本も上がり、同時にいくつもの聞き分けができるんです。いろいろなアイデアも浮んでくる。教師はそれを引き出していかなければならない。だからそういう授業づくりができるように、ぼく自身の教師の力をつけていかないといけないと思う」。そう語る水野先生の言葉が、非常に印象的でした。

そうじ大会が終了した直後、子どもたちと振り返り、気づきを共有する時間を持つ。無事に大会を終えられたこと、みんなが精一杯がんばったことをねぎらう。
地域での学び&ゼロから創る学びが、先生の役割を変える。
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