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テーマ型調査
「みらリポ2017」

プロジェクト編04
「 アイテムチームから、 お願いがあります。」

小学5年生が学んだ「想定外に対処する力」とは?
2017/07/04 カテゴリ:
プロジェクト編
データ

「教室外の現実の問題も他者との対話を通して
解決できるような実践力」が、必要だ。

昨今の教育をめぐるキーワードとして、「21世紀型スキル」「21世紀型能力」と呼ばれるものが注目されています。もともとは「社会が変わり、これからの教育を考える必要がある」との認識のもと、世界中の教育研究者と世界有数のテクノロジー企業のプロジェクトとして考えられたものです。その後さまざまな機関や研究者によって検討されていますが、たとえば、我が国の国立教育政策研究所は報告書『社会の変化に対応する資質や能力を育成する教育課程編成の基本原理』の中で、「21世紀型能力」として、「『基礎力』『思考力』『実践力』という3つの観点から社会の中で生きる力に直結する能力を醸成することが必要」と整理しています。

このレポートで注目したいのは、その中でも「実践力」についてです。国立教育政策研究所は「変化の激しい時代には、読み書き計算といった基礎的なリテラシーを超えた教育目標が必要」で、「それは、未知の問題に答えが出せるような思考力と、教室外の現実の問題も他者との対話を通して解決できるような実践力だ」と報告書に記載しています。

「地域と関わり学ぶ子ども」のほうが、
自分の考えを持ち、伝える力が高い?!

上記の報告で着目したいのが、教室外の現実の問題を「他者との対話を通して」解決できるような実践力と述べているところです。現場に出てみると、机上で得た知識や会議室内の議論でつくったプランでは予想もつかなかった問題がしばしば起こる。そうした問題の解決には、問題の当事者やいっしょに働くメンバーといった「他者との対話」が鍵になる。このようなことは、私たち大人が、よく実感するところではないでしょうか。

では、「他者との対話」を行う力はどのようにして高められるのか。私たち博報財団こども研究所が全国の小学生を対象に行った定量調査では、「地域と関わり学ぶ子ども」と「地域と関わりなく学ぶ子ども」の回答を比較すると、前者のほうが、「物事に対して、自分なりの意見を持つ」「自分の意見や考えを、まわりにはっきり伝える」「言いたいことが相手に伝わるように話し方に工夫をしている」といった点でスコアが高い傾向にあることがわかります(図4)。

地域と関わり合う学びが、「他者との対話」を行う力を育み、そして、「教室外の現実の問題を解決できるような実践力」を育んでいるのではないか。そうだとしたら、それはどのようにしてなされているものなのでしょうか。

図4 出典:博報財団こども研究所「こどもと地域調査」2016年
図1
実践

クラスで一度は決めたことだけど......
「想定外の壁」 が現れる!

議論を尽くして、一度「巴川のみ」と決まった清掃範囲。しかしシール会社との「契約」を果たすため、そうじさんは自ら発言を撤回、みんなに向かって説明と願いをする。

共同研究プロジェクトでは、「そうじ大会」の実現に向けて、開催日時や場所、当日のプログラム、当日までのスケジュール、必要なタスクと役割分担といった「全体の見通し」を、先生がファシリテーターとなり、子どもたち自身で議論しながら組み立てていきました。大人の言葉で言えば、「プロジェクト・デザイン」でしょうか。「事業を構想する力」「全体の見通しを立てプロセスを設計する力」も、「実践力」のひとつの要素と言えるでしょう。

やるべきこと・必要なモノ・役割分担などを視覚化しながら整理していく「ウェビング法」で大会全体の見通しを立てる。

企画概要を決定するにあたって重要なポイントとなったのが、「清掃範囲」の設定でした。5年2組が「巴きら」を通じて達成したい目標は、「巴川を通して、地域にその大切さを伝える」こと。清掃の対象として巴川は必ず含まれますが、それ以上に清掃範囲を広げるのかどうか、クラスの中で意見が真っ二つに分かれました。意見のひとつは、「地域の人のためになるのは、巴川だけをきれいにすることではない。だから江尻学区全体を掃除する」というもの。それに真っ向から反対したのが、「学区全体にすると十分に掃除できない範囲が出てくる。全部やり切れなければ、それは意味がない。だから範囲は巴川に限定するべき」という意見。

この意見を唱えたのが、そうじさんという男子でした。白熱の議論と投票の結果、清掃範囲は巴川に限定することに。

その後、子どもたちは「企画」「宣伝」「アイテム」の3つのチームに分かれて、大会への準備を進めていきます。そうじさんが所属するアイテムチームでは、学校のマスコットをデザインしたシールをゴミ袋に貼り、5年2組のオリジナルのゴミ袋を作成しようということに。そしてそのためのシールの制作を、地元のシール印刷会社「保坂シール印刷」に依頼しに行きます。

熱心に子どもたちの話を聞いてくれ、快くシールの制作を請け負ってくれた社長の吉川さん。ただし「シールはお金をいただいて制作するものだから、無料ではあげられない」という世の中のルールについてもきちんと教えてくれます。そして、「ふつうは無料ではあげられないけれども、みんなが一生懸命掃除をして会社の周囲も含めた地域をきれいにしてくれるなら、その対価としてシールを印刷してあげられる」という条件を提示してくださいました。

ゴミ袋に貼付するオリジナルのキャラクターシール。

ここでそうじさんをはじめとするアイテムチームのメンバーは戸惑います。清掃範囲は一度「巴川のみ」に決まったはず。けれども、この範囲を広げなければ、シールは手に入りません。どうすればいいのか。

チームで相談の結果、「シールをつくってもらう代わりに清掃範囲を拡大したい」という、ある意味で「ちゃぶ台返し」となる提案をクラスみんなに伝えることに。そうじさんは「自分にやらせてほしい」と名乗り出て、クラスみんなの前で説明します。自分が一度よくよく考え主張したことを翻すために、事情を順序立てて説明し、頭を下げてお願いすることは、私たち大人であってもそうそう簡単ではありません。そんなそうじさんたちアイテムチームの真摯な提案に、他のみんなは気持ちよく賛同してくれました。

考察

地域と関わり合う中で、「実践力」は育まれる。

私たち博報財団こども研究所は、授業の実践を通して、地域と関わり合う学びの中でも「地域と関わるイベントやプロジェクトをゼロから創る学び」こそ、実践力を育むのに大きな効果を発揮するのではないかと考えています。しっかりと全体の見通しを立てて、計画し、準備する。けれども、実際に社会・地域に飛び込んでいくと、予想もしなかったことが起こる。

自分の頭の中や教室の中だけで考えていたことを超える事態に、その場で柔軟に対応しなければいけない。クラスの仲間や地域の人々と話し合いながら、想定外の展開に対応していく。そうした体験を通して、「教室外の現実の問題も他者との対話を通して解決できるような実践力」「社会の中で生きる力」は育まれていくのではないでしょうか。

やるべきこと・必要なモノ・役割分担などを視覚化しながら整理していく「ウェビング法」で大会全体の見通しを立てる。
最終的に設定された清掃範囲。「保坂シール印刷」を含み、かつ、掃除がきちんとやりきれる範囲を企画チームが検証して設定。
地域に飛び込み、「想定外の壁」に挑む体験が、実社会を生きる力、「実践力」を育てる。
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