博報財団こども研究所

みらリポプロジェクト編01

「 正解がないから、発言ができる。」

ひとりの女の子が、「そうじ大会」を通じて育んだ「自己肯定感」とは。

日本の若者は「自己肯定感」が低い。

 近年、さまざまなところで話題に上がるのが、『日本の若者は、「自己肯定感」が低い』ということ。たとえば、内閣府の平成26年版の『子ども・若者白書』では、日本を含めた7ヶ国の若者を対象とした意識調査の結果を引いて、日本の若者は「諸外国と比べて、自己を肯定的に捉えている者の割合が低い」「諸外国と比べて、自分の将来に明るい希望を持っていない」(図1)と指摘されています。

図1

出典:内閣府 平成26年版「子ども・若者白書」

 自分で自分のことを好きだと思うこと。自分という存在を大切だと思うこと。自分の未来は明るいと思うこと。こうした「自己肯定感」は、人が生き、幸せな人生を創り上げていく上で最も大切なものであるはず。どうすれば「自己肯定感」を高められるのか。育んでいけるのか。そのヒントのひとつになるかもしれないデータを、私たちが実施した定量調査で見つけました。それが、図2です。

図2

出典:博報財団こども研究所「こどもと地域調査」2016年

約2割増し!「地域と関わる子ども」は、
「自己肯定感」が高い?!

「あなたの学校では、近くに住んでいる大人といっしょに授業や活動をすることがありますか?」という質問に対して、「数ヶ月に1回以上ある」と答えた子どもたちと、「ない」と答えた子どもたちとを比較してみます。仮に前者を「地域と関わり学ぶ子ども」、後者を「地域と関わりなく学ぶ子ども」と呼んでみましょう。両者について、「自分の個性を大切にしたい」「自分には自分なりのいいところがあると思う」「自分の未来は明るいと思う」といった「自己肯定感」についての5つの設問に対して2つ以上「あてはまる」と答えた人の割合を比較すると、「地域と関わり学ぶ子ども」は、「地域と関わりなく学ぶ子ども」に対して、2割以上も「自己肯定感」が高いという結果が出ています。「地域と関わり学ぶこと」は、日本の子ども・若者の「自己肯定感」を育むにあたって、ひとつの鍵となりそうです。
 でも、「地域と関わり学ぶこと」は、どのように「自己肯定感」とつながっているのでしょうか? 「地域と関わり学ぶこと」が「自己肯定感」を育むことにつながるとしたら、そこにはどのようなメカニズムが働いているのでしょうか。

授業のテーマは、「自分たちが住む地域のために何ができるか」。明確な正解のない問いに対して考え抜く経験が、子どもたちの達成感につながった。

イベントづくりには、いろいろな「役割」が必要。
自分が「役割を果たす」機会が、きっと来る。

 私たちは、定量調査と並行して静岡県静岡市立清水江尻小学校との共同研究プロジェクトを行いました。清水江尻小は、2016年に静岡市で初となるコミュニティ・スクールに認定された小学校です。
 今回は、5年2組の2016年9月~12月の総合的な学習の時間「巴きらきら学習(通称“巴きら”)」の授業を、学校と協働して実施。授業では、子どもたち自身が「地元の川・巴川を大切にしよう」というテーマを達成するための企画を考えました。
 まず「ハゼ釣り大会」や「ポスター制作」といった4つの案を考え、チームに分かれ企画を練り、プレゼンを実施。さらに、チームをシャッフルしてから、「クラス一体で取り組めるか」「準備がきちんとできるか」等の目的に照らして各案を評価。
 しっかりと検討・議論を尽くした上で、「地域の人に参加してもらうそうじ大会」を投票で選択。その準備・実行にクラス一丸となって取り組みました。
 2016年11月6日(日)に開催されたそうじ大会本番は、快晴の秋空のもと、クラスの子どもたちの保護者、他の学年・クラスの保護者や地域の方々、趣旨に賛同いただいた地元企業の方々など総勢約50名が集まり、元気に楽しく巴川とその周辺を清掃しました。

「地域が楽しめるか」「巴川を大切にすることに繋がるか」などの目的に照らし、4つの企画を比較検討。十分議論を尽くした上で、「ひとり2票」を投票し、企画を決定。この納得感が、子どもの自創的な動きを生んでいく。

 そんな4ヶ月の授業の中で、私たちはみきさんというひとりの女の子の変化に注目しました。活発な子どもが多く、「そうじ大会」の企画・準備に向けて盛んに議論が取り交わされているクラスの中で、みきさんははじめ、発言の少ない、目立たない子どもでした。
 たとえば、そうじ大会のゴミ袋に貼るクラスのオリジナルの「シール」をデザインするという作業に取り組んでいたときのこと。学校名と協力してくれたシール印刷会社の名前を「もうちょっと濃く描いたほうがいいと思う」。意見はきちんと持っているのに、チーム全体には発言できず、となりの子にささやくだけ……。そんなシーンがありました。あとで話を聞くと、「私も描きたかったけれど、そのとき描いてくれていた3人ががんばってくれていたから、見ているだけだった」「あまり意見言えないタイプだから、みんなに任せちゃう。声が大きくて、頭も良くて、意見もちゃんと言えるような子に」と気持ちを話してくれました。
 そんなみきさんが、地域と関わるそうじ大会の企画・準備を通じて、少しずつ変わりはじめます。
 ひとつのきっかけになったのが、「たわしの準備」。川のそうじをするためのたわしがいくつ学校内にあるのか。それを、掃除用具を管理している保健室の先生にヒアリングに行く役として、保健委員だったみきさんにチームのみんなが白羽の矢を立てたのです。急いで保健室の先生に聞きに行くみきさん。何を企画していて、たわしが何個、いつ必要か。しっかりと保健室の先生に伝えます。「後で調べておくね」と返す保健室の先生に、いま確認できないかと食い下がります。保健室の先生も時間を割いてくれ、その場で一緒に倉庫に確認に行くと、欲しかった数には大幅に足りないことがわかった……。大変だ、早くチームのみんなに知らせて、対策を考えないと……。急いでクラスに帰るみきさんの表情は、その状況に焦りつつも、どこか充実感を感じさせるものでした。

目立つタイプでなくてもいい。そうじ大会の実施に向け多様な役割のある学びの中で、みきさんは、自分だけが気づけること・できることがあるという自信を積み重ねていく。

自己肯定感は、ひとりでは育たない。
関わりの中で育まれるもの。

 こうしたみきさんの変化や声から、私たちは「地域と関わり学ぶこと」と「自己肯定感」とのつながりを考えるヒントを得たような気がします。
 「地域と関わる学び」は、まず「正解のない学び」であることが多いということ。そうじ大会の企画・運営などといった体験学習は、教科学習に比べて、これと決まった正解があることが少なく、自ら考え、仲間と対話しながら、自分たちなりの納得解を創り出す必要があります。また、「地域と関わる学び」においては、多種多様な仕事が発生し、多種多様な役割が生まれます。だれかひとり優秀な人がいれば解決されるというものではなく、クラスの一人ひとりがさまざまな役目を担い、行動してこそ、ひとつのプロジェクトが成功するのです。そして、「地域と関わる学び」は、ふだんは接しない、さまざまな人々と子どもが関わる機会です。

自分たちの考えた取り組みが、自分の身近にいる大人に褒められること、受け入れてもらえること。それは子どもたちにとって、大きな達成感につながる経験となる。

「正解のない問い」に対して、「クラスの一人ひとりが多様な役割」を担って挑み、それに対して「さまざまな大人たちが協力や評価」をしてくれる。こうした学習においては、自分なりの意見を出すことやお互いの意見を傾聴し合うことが求められるでしょうし、自分には自分なりの役割があること、自分の個性が何かの役に立つことを体感できるでしょう。そして、さまざまな大人からの有形無形の支えや応援を感じることでしょう。そうしたまるごとの学びを通じて、「自身や未来についての肯定的な気持ち」も育まれていくのではないでしょうか。
 清水江尻小学校の山下由修校長は子どもたちの変化に対して次のようなことを言っています。
 「自己肯定感というのは、周りからの期待だとか周りが自分を認めてくれたとかいうことから育まれるもの。一人ひとりでは、自己肯定感って、けっして高まっていかないんですよ。地域の人が見ていてくれる。お母さんやお父さんが褒めてくれる。先生が“君にはこんな力があったんだ”と、その力を引き出してくれる。そうした関わりの中で自己肯定感は育まれる。自分自身の中だけでは気がつかないものなんです」
 では、私たちの子どもが通う学校で、私たちが暮らす地域で、どんな「関わる学び」を創れるか。日本の「自己肯定感」の問題は、学校だけの問題ではなく、私たち大人一人ひとりのアイデアやアクションが求められる問題でもあると考えました。

「正解のない問い」に多様な役割で挑み、
多様な大人と関わることが、自己肯定感を育む。

博報財団こども研究所 ©公益財団法人 博報児童教育振興会